2017年8月18日金曜日

筋弛緩の拮抗

初期研修医勉強会 担当:M先生

「筋弛緩の拮抗」

・ネオスチグミン
 →抗コリンエステラーゼ薬
  ・コリンエステラーゼを阻害し
   →神経筋接合部でのACh濃度を高める。
   →非脱分極性筋弛緩薬に拮抗
 ・副交感神経でのムスカリン作用を拮抗するためにアトロピンを併用。
 ・副作用
   ・コリン作動性クリーゼ、不整脈(徐脈)、
    腹痛、唾液分泌過多、流涙、気管支痙攣、・・・
・ネオスチグミンの問題点
 ・効果発現まで10〜15分ほどかかる
 ・深い筋弛緩状態ではネオスチグミンを増量しても
  効果が出ない(天井効果 ceiling effect)
 ・筋弛緩からの自然回復が進んだ状態で
  高用量のネオスチグミンを投与すると
  かえって神経筋伝達が阻害される(逆説的な筋力低下)。

・スガマデクス
 ・効果発現は迅速
 ・浅い筋弛緩(TOFでT2発現時)では1.4分、
  深い筋弛緩(PTC1 ~2)では2.7分でTOF比0.9まで回復する。
 ・健康成人に96mg/kgに達するスガマデクスを投与しても
  いかなる有害事象も出現しなかったという報告もある。
 ・小児に対するスガマデクスの使用
   ・studyはほとんどない
   ・成人に対するスガマデクスの推奨量と同等量で
    十分なリバースが得られる。
     →しかしリバースまでの時間は短くなる
   ・2歳以上の小児における適度な筋弛緩の場合は
    2mg/kgの量でリバースができる
 ・病的肥満の患者
   ・理想体重で算出した投与量では不十分
    →理想体重で算出した投与量の+40%で
     臨床的に有効な拮抗(平均回復時間<2分)ありとの報告。
   ・投与量に関して最終的なコンセンサスはない。
 ・妊婦
   ・妊婦に対するstudyはない。
   ・乳汁中に移行するかどうかは知られていない。
   ・妊産婦・授乳婦に対する影響はないと考えられている。
 ・ロクロニウムアレルギーに対する使用
   ・有効とする報告例はいくつかある。
   ・しかし明確に有効性を示した文献はまだない。
   ・もし考慮するのであれば早期に高用量(16mg/kg)での投与を。
 ・RSIにおいては?
   ・RSIにおいてロクロニウム−スガマデクス複合体は
    サクシニルコリンよりも安全である。(Cochrane review)
 ・スガマデクスの臨床的な副作用(>2%)
  ・早期拮抗により
    ・浅麻酔時の咳き込みや体動、苦悶表情。
    ・気管内チューブによる嘔吐。
  ・QT延長、AV blockの可能性(研究により様々)。
  ・アレルギー反応(初回投与でも起こりうる)。
  ・筋弛緩の再出現(投与量が不十分な患者での報告)。
 ・禁忌
  ・絶対的禁忌
    →スガマデクスに対するアレルギーのみと考えて良い
  ・相対的禁忌
    ・出血性疾患
    ・腎機能不全
    ・トレミフェンやフィジン酸の使用

・筋弛緩のモニタリング
 ・TOF(Train-of-four;4連刺激)
   ・2Hz(0.5秒間隔)で4回連続の最大上刺激を与える。
   ・TOFは第1刺激による反応(T1)と
    第4刺激による反応(T4)の比(T4/T1)を%で表示する。
   ・麻酔導入時:気管挿管のタイミング: TOF=0%(反応数 0/4)
   ・麻酔維持中:適切な維持状態    TOF=0%(反応数 1〜2/4)
       追加投与のタイミング   TOF=0%(反応数 3〜4/4)
   ・覚醒時期 :拮抗薬投与のタイミング TOF=25-35%以上
       抜管時期     TOF=80-90%以上
  ・TOF比>0.9
    →残存筋弛緩からの回復を示唆する一般的な指標。
  ・TOF刺激による2回目の収縮反応(T2)の再出現を
  「浅い筋弛緩状態」と呼ぶ。
 ・PTC(Post-tetanic count)
  ・深い筋弛緩時のモニター。
  ・5秒間50Hzの刺激を与えて3秒間休止。
  ・引き続き15回1Hzの刺激を与え検知された反応数を表示。
    ・PTCが1なら10分以内にTOFのT1が出現する。
    ・PTCが5なら3-4分で、7ならまもなくT1が出現する。

・筋弛緩の再出現
  ・末梢分画のロクロニウムが中枢分画(血中)に戻る。
   →肝臓での代謝能力、または血中での包接可能量を超える。
   →神経筋接合部に移行。
   →再び筋弛緩状態となる。
  ・完全な筋収縮(TOF=100%)
    →75%のACh受容体が筋弛緩薬で占められている場合にも起こる。
    →循環によって増加した少量のロクロニウムでも
     再び筋弛緩を引き起こすのに十分な量になりうる。