2016年11月23日水曜日

術中よく使う抗生剤を知ろう

麻酔科勉強会 担当:I先生

「術中よく使う抗生剤を知ろう」

・SSI(Surgical Site Infection)
・麻酔科医が術中にできるSSI対策
 ・適切な予防的抗菌薬投与
 ・術中血糖管理
 ・適切な組織酸素分圧の維持
・抗菌薬決定に関わる5項目
 ・背景、臓器、微生物、抗菌薬、投与期間
・細菌の分類を整理しておくと・・・
 ・グラム陽性球菌(GPC)
   ①黄色ブドウ球菌②腸球菌③その他
 ・グラム陰性桿菌(GNR)
   ①腸内細菌群②緑膿菌③その他
 ・嫌気性菌
 ・耐性菌
   ①MRSA②ESBL産生菌など

・第1世代:CEZ(セファゾリン)
 ・CEZの特徴
   ・黄色ブドウ球菌専用の抗菌薬!
   ・本当は連鎖球菌や肺炎球菌などのGPCを広くカバー
   ・実はGNRもカバー(大腸菌、クレブシエラなど)
 ・なぜCEZを黄ブ菌にのみ使うのか?
   ・海外には「ナフシリン」などの抗黄ブ菌ペニシリンが存在。
     →日本にはありません・・・
   ・病原性の強い黄ブ菌を抑える次の候補がCEZ
     →だから他には使いたくない!(=”温存”の思想)
   ・髄液移行性がないので注意!
    →中枢神経感染症には使えない。
    →髄膜炎の治療には第3世代以降を使う。
・第2世代:CTM(パンスポリン)
 ・CTMの特徴
   ・第1世代に加えてグラム陰性菌のカバーが広がる
    ・GNR:大腸菌、クレブシエラ、プロテウス
    ・GNC:インフルエンザ菌)、モラクセラ-カタラーリス
 ・GPCに対する抗菌活性は第1世代・CEZに劣る
 ・日本にしかない抗菌薬
   →サンフォードではCefuroximeを参考に。
 ・単純性尿路感染症の初期治療で大活躍。
・第2世代:CMZ(セフメタゾール)
 ・CMZの特徴
   ・腹腔内嫌気性菌をカバーする
    =腹腔内感染症に有用!―ぜひ”温存”を
   ・注意:腸球菌にはセフェム全世代とも無効!
 ・有名な副作用
   ①Wfとの併用でPT延長、②ジスルフィラム様作用
 ・日本にしかない抗菌薬
   →サンフォードではCefotetanやCefoxitinを参考に。
 ・CMZの適応疾患
  ・腹腔内感染症全般
    ・急性胆管炎(ドレナージ併用必須)
  ・虫垂炎・憩室炎
  ・胆嚢炎(手術待機中)
  ・二次性腹膜炎(消化管穿孔)
  ・骨盤内炎症性疾患(PID)
    Q.腹腔内感染症に腸球菌カバーはルーチンでいるか?
    A. IDSAguidelineでは「不要」と記載している。
     →CMZで十分!
  ・下部消化管手術の周術期予防的抗菌薬
・VCM(バンコマイシン)
 ・VCMの特徴
  ・全てのGPCに有効―ぜひ”温存”を!
  ・耐性GPCの第1選択薬・・・3つのtarget
    ①メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)
    ②ABPC耐性の腸球菌
     ・主にEnterococcus faecium (腸球菌の約20%)
    ③ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)
     ・髄膜炎の場合のみ
 ・VCMの適応疾患
   ①MRSAを想定するとき
    ・GPC cluster菌血症の初期治療
    ・重症でMSSAかMRSAか分からないときの初期治療
    ・人工物感染の初期治療
      ・ちなみにブドウ球菌が好きなものは?
       ・皮膚→蜂窩織炎
       ・血流→カテーテル関連血流感染症(CRBSI)
           感染性心内膜炎
       ・骨→椎体椎間板炎、関節炎
       ・膿瘍→硬膜外膿瘍
       ・人工物
         →弁、関節、ペースメーカー、VPシャント
   ②腸球菌を想定するとき
    ・GPC chain菌血症の初期治療
    ・腸球菌菌血症の初期治療
     →「腸球菌が血培から生える」=超重症のサイン
    ・尿路感染症
    ・胆道感染症
    ・感染性心内膜炎
    ・CRBSI・・



2016年11月22日火曜日

高乳酸血症の鑑別

ICU勉強会 担当:O先生

「高乳酸血症の鑑別」

・乳酸とは
 ・ピルビン酸
  =細胞質におけるブドウ糖解糖の最終産物
    →LDHによる脱水素
    →乳酸の産生。
・乳酸の多くは、肝臓に取り込まれ代謝される。
・バイオマーカーとしての乳酸
  ・ショック状態において重症化初期の乳酸値が4mmol/L以上
    →72時間後の死亡率上昇に関連する。
  ・24時間以内に乳酸値が正常範囲内に戻れば死亡率は低下する。
・高乳酸血症(L-Lactate)の原因
  ・ピルビン酸の産生増加
    ・糖原病、褐色細胞腫、β刺激、敗血症(SIRS)
  ・ピルビン酸から乳酸への代謝シフト
    ・組織低酸素
      ・全身性痙攣、激しい運動、シバリング、重症喘息発作
       ショック、心停止、重症低酸素血症
    ・ミトコンドリアでの代謝異常
      ・敗血症(SIRS)、チアミン欠乏、DKA、Rey's 症候群
  ・薬剤性
     ・抗ウイルス薬、メトホルミン、プロピレングリコール、
      プロポフォールなど
・乳酸代謝障害
     ・低灌流、アルコール依存症、肝障害
  ・メカニズム不明
     ・特発性、悪性腫瘍、低血糖
・D-乳酸について
  ・乳酸にはL-乳酸とD-乳酸が存在。
    →両者は光学異性体の関係にある。
  ・臨床の現場で遭遇する乳酸はL-乳酸
  ・D-乳酸は細菌により産生されることが多い。
  ・稀にD-乳酸がアシドーシスの原因となる。
・D-乳酸アシドーシスを考慮するのは?
  ①短腸症候群
     ・腸管での吸収不全が背景にある患者
     ・吸収されなかったグルコースが腸内細菌による分解。
       →細菌から大量のD-乳酸が産生される。
       →これらが大腸で吸収されることで生じる。  
  ②プロピレングリコールの投与
     ・プロピレングリコール 
       →ロラゼパム、ジアゼパムの溶媒として使用される。
     ・プロピレングリコールの代謝産物の中にD-乳酸あり。
  ③ 糖尿病性ケトアシドーシス
     ・DKA患者
       →アセトンやジヒドロキシアセトンが産生される。    
       →代謝産物であるmethylglyoxalからD-乳酸産生。
・D-乳酸アシドーシスの診断
  ・臨床症状+患者背景から疑う。
    ・何らかの意識障害や構音障害が最も頻度が多い症状。
    ・検査から迅速に診断することは困難


ロボット支援下前立腺手術にて

2016年11月21日月曜日

回収血輸血

麻酔科勉強会 担当:M先生

「回収血輸血」

・回収血の利点
  ・術中輸血量の減少
  ・輸血に伴う有害事象の回避
    ・GVHD、輸血に伴う免疫修飾反応の回避など
  ・同種輸血よりもコストが安い
    ・ちなみにRBC 2単位:16,333円。
  ・同種輸血よりも速やかに投与できる。
    ・交差試験を行う必要がない。
・回収血の適応は?
  →開心術、大血管手術並びにその他無菌手術。
  ・細菌あるいは悪性腫瘍細胞の混入がある場合は禁忌。
  ・出血量が600ml以上(小児では10ml/kg以上)で保険算定。
・ちなみにup to dateでは?
  ・出血1,000mlで適応。
  ・循環血液量20%以上の出血が予想される症例。
  ・術前Hbが低い症例。
  ・出血の危険性が高い症例。
  ・多くの不規則抗体を持つ症例。
  ・血液型がRh(-)の症例。
  ・感染、悪性腫瘍についてはCase by Case。
  ・妊婦は基本的に安全。
・感染について
  ・2015年のsystematic review
    ・外傷緊急手術において回収血vs回収血なし
    ・術後のsepsisの発生に有意差なし。
    ・Cost、死亡率はやや低下したが有意差なし。
     ・術後3時間の輸血量は減少。
  ・要因として・・・
    ・術前のSSI予防の抗生剤投与。
    ・回収血の処理において98%の細菌は除去される。
    ・IEに関しては調べきれず。
・悪性腫瘍について
  ・前立腺がん、肝細胞癌、子宮がん、消化器腫瘍を対象とした
   メタアナリシスでは再発率に差はなし。
  ・肝細胞癌、前立腺がんの一部では再発が早かったという報告も。
  ・血行性転移の早い腫瘍ではリスクがあるかも。
  ・白血球除去フィルターの使用により腫瘍を除去できる可能性。
・妊婦について
  ・羊水塞栓の可能性は??
    ・回収血を処理し洗浄する場合リスクは低い。
    ・羊水を吸引する場合は注意。
    ・ただし産科手術が禁忌というわけではない。
    ・癒着胎盤などの大量出血予想症例では使用を考慮。
    ・血液型の問題。
      →児Rh(+)、母Rh(-)の場合は感作される。
・回収血に伴う事象
  ・凝固因子の欠乏
    →凝固成分は除去されている。
  ・輸液過多、TACO。
  ・空気塞栓
  ・脂肪塞栓
    →40um以下の成分は濾過できない。
  ・鉄過剰
  ・電解質異常

 

2016年11月7日月曜日

利尿薬の使い方

ICU勉強会  担当:A先生

「利尿薬の使い方」

・そもそも利尿薬とは???
  →塩を体の外に出す薬(水利尿は例外)
・利尿薬の作用部位
  ・近医尿細管での再吸収60%
  →近位尿細管に作用する薬が最強では?
    →ヘンレ上行脚以降のNa再吸収量は
     管腔液流量に比例して増える。
    →近位尿細管でNa再吸収抑制しても
     下流で再吸収されてしまう。
    →利尿薬抵抗性の所以。
・塩分感受性と非感受性の話題。
・利尿薬が働くには??
  →そもそも尿細管に たどり着かないといけない。
  ・利尿薬はアルブミンなどと結合。
  ・その大きさから糸球体では濾過されず、
   近位尿細管細胞に取り込まれ管腔内に分泌。
  ※スピロノラクトンは唯一分泌されずに
   血管側から 集合管に入りアルドステロン受容体に作用。
・利尿薬が効かない・・・
尿細管にたどりつくまでの どこで障害が生じてもおこる 。
 ・腸管からの吸収不良
 ・腎血漿流量の低下
 ・低アルブミン血症
 ・GFR低下
 ・NSAID使用
 ・短期間作用型利尿薬投与のリバウンド
 ・・・
・利尿薬の個性について
 ・ループ利尿薬
   ・『最強』…?
   ・尿細管側からTALHにあるNKCC2を阻害。
   ・腎直血管血流量を増加
     →腎髄質の浸透圧勾配が崩れ尿濃縮を抑制する。
   ・心不全、AKIにおいて予後改善は示されていない。
  ・Braking phenomenon
      →近位尿細管より遠位に達するNaが増加し Na再吸収が増加。
    ・フロセミド朝1回投与
       →6時間は強力な利尿効果を発揮する。
       →その後18時間は減弱する。
    ・初日投与時よりも2日目以降は利尿効果が減少。
    ・連続投与で遠位尿細管の肥大やNKCC2の活性化が
     起こることが報告されている。
    →ループ利尿薬を急に中止すると浮腫が増悪する。
    ・心不全患者における利尿薬抵抗性
      ・腎不全では尿細管への分泌が低下しており
       同じ効果を得るには高用量が必要。
      ・心不全ではRAA系亢進によりNa再吸収が亢進している。
        →利尿薬の最大効果が減弱する。
     ・Braking phenomenonへの対応
    ・容量の増加
    ・投与方法の変更
      経口→iv、1回/day→2回/day、間欠投与→持続投与など。
    ・他のループ利尿薬への変更
      →長時間作用型のアゾセミド、トラセミドへ変更。
      →フロセミドと比し心不全患者におけるイベント抑制が示唆。
    ・その他の利尿薬との併用 サイアザイド,hANP等
 ・サイアザイド
  ・『利尿薬の祖』
  ・尿細管腔へ分泌され遠位尿細管のNa/Cl共輸送体を阻害。
  ・Ca拮抗薬、ACE阻害薬と比較してサイアザイドは
   心血管イベント/死亡で遜色なくコスト面でも使いやすい。
  ・単独での効果は弱め
    ・低用量で効果が飽和。
     増量しても副作用が増えるだけ。
    ・GFR<20ml/min, Cre>2.0mg/dLでは無効。
    ・Ca依存性Kチャネルを活性化し、
     血管平滑筋を弛緩させることによる降圧作用も。
 ・アルドステロン拮抗薬
  ・『付加価値』
  ・尿細管から分泌されず、集合管でアルドステロン受容体に
   拮抗しNa再吸収(ENaC)を阻害。
  ・作用発現まで3-7日程度かかるため純粋な利尿薬としてよりは
   RAA系抑制による心不全での予後改善を期待して投与するイメージ。
  ・アルダクトンを行儀よくしたのがセララ。
   セララは選択的アルドステロン受容体拮抗薬。
  ・HFrEF患者でのエビデンスが蓄積されている。
     ・EF<35%, NYHAⅢ-Ⅳを呈する患者において、
      スピロノラクトンを追加した群で死亡率が30%低下、
      再入院率が35%低下した。
     ・EF<30%, NYHAⅡを呈する患者において、
      心血管死亡/入院リスクがエプレレノンを追加した群で37%低下した。  
     ・EF<40%で心不全を合併したACS患者において、
      エプレレノンを追加した群で死亡率が15%低下した。
  ・HFpEFでの予後改善効果は不明
     ・心不全を有さないSTEMI患者において、
      エプレレノンを24時間以内に開始した群で
      心血管死亡/入院を含めた複合エンドポイントが抑制。
     ・HFpEF患者においてスピロノラクトン投与群は
      心不全による再入院を有意に抑制した。
      WRFや高K血症などの有害事象は有意に増加した。
 ・hANP
  ・『Cool Japan』
  ・ヒトの心房から出ているANPを合成したもの。
  ・日本でこれだけ使われているのはANP,BNP,CNPも
   その受容体もすべて日本人が発見したため(?)
  ・cGMP活性化を通じた心血管系に対する多様な作用。
   血管拡張、RAA系抑制、endothelin抑制、
   利尿作用、交感神経系抑制などなど。
  ・ループ利尿薬と違い利尿作用は用量依存性でない。
  ・高用量使用で低血圧による腎還流圧低下が生じないよう注意が必要。
   wet & warmで使いやすい。
  ・ATTEND registryでは急性心不全の約70%でhANPが使用されていた。
  ・Nesitirideの失われた10年
    ・ヒトBNPを合成したもの。
      →海外で積極的に使われていたが
       予後改善効果が否定され急速に下火に…。
  ・hANPの国内エビデンスは蓄積されている。
    ・日本国内65施設1216例の心筋梗塞患者において、
     低用量ハンプの3日間投与により梗塞サイズ縮小(14.7%)
     左室駆出率改善(5.1%)、慢性期左心機能改善により
     複合エンドポイントの 発生リスク低減。
    ・NYHA3−4を呈する急性心不全患者8施設49例で
     低用量ハンプの3日間投与。
     追跡期間18ヶ月での複合エンドポイント
    (総死亡+心不全による再入院)はハンプ投与群で有意に低かった。
 ・トルバプタン
  ・『待望の作用機序』
  ・腎集合管のV2受容体を阻害しAQP2発現を抑制。
  ・尿細管分泌を必要とせず腎機能に左右されない。
  ・自由水のみを排泄する点で他の利尿薬と異なる。
  ・腎髄質の高浸透圧が保たれ
   集合管での水再吸収が 活発に行われている場合に効果を発揮。
  ・ループの長期使用後に使用しても効果が出にくい。
  ・長期的な予後改善効果は不明。
   しかし・・・
     →体液貯留が多いほど術後のICUでの滞在日数が延長する。
     →トルバプタンは従来の利尿薬と全く別の機序で作用するため、
      現行薬剤に反応しない場合に効果が期待できる。
     →ちなみにADPKDに対してはトルバプタンが
      1st lineに位置づけられている。(cAMP阻害作用)
  ・注意点は重篤な肝機能障害、高Na血症。
     →必ず入院中に少量から投与開始。口渇時には飲水を。


スタイレットスコープで挿管