2017年7月19日水曜日

酸素化戦略

麻酔科勉強会 担当:O先生

「酸素化戦略」

・人間には約60兆個の細胞が存在
・各細胞は食物から得られるADPをATPに変換し、ATPをエネルギーとして全身で利用
・その際に酸素を利用することで、効率的にATPを産生
・ADP1単位から好気性代謝でATP36単位、嫌気性代謝で2単位生成
・輸液療法も輸血療法も酸素化療法(人工呼吸管理)
  →最大の目標は『全身の酸素化』
   ・酸素供給
   ・酸素需要
   ・酸素利用率
・血液中の酸素
 ・酸素を運搬しているのはHb
 ・SO2=酸素Hb/総Hb
 ・酸素解離曲線の存在
 ・溶存酸素(ml/dL)=0.03(ml/L)×0.1×PO2(mmHg)
 ・動脈血酸素含有量(CaO2;ml/dL)
   =1.34×Hb×SaO2+0.003×PaO2;正常値:20
 ・静脈血酸素含有量(CvO2;ml/dL)
   =1.34×Hb×SvO2+0.003×PvO2;正常値15
 ・溶存酸素は非常に小さい値なので(<0.3ml)
   →簡易酸素含量=1.34×Hb×SO2
・酸素を細胞内に取り入れる最大の組織は肺
 ・肺は肺胞/肺血管を通じて、CO2とO2を交換
 ・O2は血液に取り込まれHbに結合することで血中へ(わずかに溶存もする)
 ・ポンプ機能を持つ心臓によって全身に送られる(心拍出量に依存)
・酸素の供給
 ・酸素供給量はDO2(mL/min)で計算
 ・DO2=CO×1.34×Hb×SaO2×10
 ・正常値は900-1100mL/min、体格補正(体表面積;BSAで割ったもの)で520-600
   →250を下回ると組織の低酸素に至る
 ・輸液やカテコラミンは主にCOに影響
・酸素摂取量(VO2)
 ・組織内には酸素を貯蔵されない
 ・酸素摂取量=酸素消費量の包括的測定値
 ・酸素摂取量はVO2で計算
  →COを求めるFickの式を使用して計算
   VO2=CO×1.34×Hb×(SaO2-SvO2)×10
 ・限界もある。
   ・VO2の計算に必要な測定項目であるCO,Hb,SO2,血中酸素含量には
    測定誤差(内因性の変動)があり、最大で18%もの誤差がある
   ・肺の酸素摂取量が計算値に含まれていないため
    厳密には『全身の酸素摂取量』ではない
   ・肺のVO2は5%程だが炎症で20%まで変化
   ・全身のVO2の計算式:VO2=VE(分時換気量)×(FiO2-FeO2)
・VO2低下の原因
 ・代謝の異常(低代謝)と嫌気性代謝をもたらす組織酸素化の不足
   ・低代謝の原因
     ・全身麻酔薬の存在(鎮静、麻薬、筋弛緩)
     ・低体温
     ・低活動、高齢者
     ・敗血症(全身の炎症反応)
 ・VO2の正常値は200~270、体格補正後は110-160
 ・VO2/BSAから110を引いた値に時間をかけたものが『酸素負債』
 ・酸素負債と多臓器不全のリスクは直接関係する。
・酸素摂取率(O2ER)
 ・O2ER=O2ER=VO2/DO2
 ・溶存酸素を無視し、共通項(CO,1.34,Hb,10)を消して簡易化する
   →O2ER=(SaO2-SvO2)/SaO2
 ・正常値は0.20-0.30
 ・0.30を超える場合はDO2の低下を意味する(貧血や低心機能など)
 ・0.50(嫌気性代謝閾値)を超えると組織の低酸素になる(後述)
 ・0.20未満では組織の酸素利用障害を示す
   ・DO2が減少しても初期にはVO2に変化はない
   ・DO2が下がりすぎるとある一点でVO2が低下する。
   ・この点が嫌気性代謝の閾値
・これらを見るために必要なモニターは?
 ・SaO2にはパルスオキシメーター(Aガス)
 ・HbにはABG or VBG
 ・COはPAC、CV(プリセップ)、エコーで測定もしくは推測可能
 ・SvO2はPACのみ・・・
   →ScvO2でも推測可能
・混合静脈血
 ・上大静脈』『下大静脈』『冠静脈』の3つの静脈血、
  すなわち肺を除く静脈血の混合(合流)した静脈血の酸素飽和度
 ・3つの静脈の合流場所は右心房。測定場所は通常肺動脈
 ・混合静脈血酸素飽和度(SvO2)
   ・65%-75%が正常値
   ・呼吸器の使用や酸素化されてSaO2が一定であれば
    その変化はERの逆に捉えることができる
         =ER=(SaO2-SvO2)/SaO2
   ・SvO2<65%は酸素供給量の低下(貧血、低心拍出量)
   ・SvO2<50%は組織低酸素
   ・SVO2>75%は組織の酸素利用障害
 ・中心静脈血酸素飽和度(ScvO2)
   ・CVカテが留置されていれば測定可能
   ・先端が留置されている場所での静脈血のガス測定が可能。
    →『上大静脈』or『下大静脈』
   ・酸素が極端に少ない冠静脈は含まれない
   ・SvO2とScvO2の間には差がある(ScvO2の方が高い)
      ・ScvO2の変化は一般的に有意である
   ・正常値は70-89%
・SvO2とScvO2の解離
  ・正常でもScvO2はSvO2よりも3-11%程度高い。
  ・この差は心不全、心原性ショック、敗血症で大きくなる
  ・上大静脈にカテ先端が留置されている場合
     ・心不全、心原性ショックなどで低心拍出量
       →末梢血管抵抗の増大により脳血流が保たれる。
       →ScvO2は相対的に高い値を示す
  ・敗血症性ショックでScvO2がSvO2よりも比較的高い場合
    →腹部での酸素消費量の増加を示唆する
・乳酸値
 ・乳酸は嫌気性解糖の最終産物
 ・高乳酸値は低酸素状態(および脱水)を必ずしも反映しない
 ・低酸素状態になればlacは上昇するがVO2の低下から数時間遅れる
 ・これは乳酸が負に帯電しており細胞膜通過に時間がかかるため
・組織低酸素ではない高乳酸血症
 ・全身性炎症反応症候群
 ・チアミン欠乏(原因不明の高lac血症)
 ・薬物
   ・アドレナリン、メトホルミン
    抗レトロウィルス薬、リネゾリド
    プロピレングリコール
     →プロピレングリコールを含む薬剤
       ・ロラゼパム
       ・ジアゼパム
       ・エスモロール
       ・ニトログリセリン
       ・フェニトイン
 ・アルカローシス
 ・痙攣
 ・肝機能障害
 ・喘息発作
 ・悪性腫瘍
 ・シアン化合物
 ・一酸化炭素など
・乳酸そのものは有害なのか
 ・敗血症性ショックでは心臓における乳酸の酸化が亢進している
 ・低酸素状態の神経組織では乳酸の酸化が重要なエネルギー源である
 ・乳酸アシドーシスの治療は原因となった代謝異常を是正することが第一
・重症敗血症と高乳酸値
 ・細菌のエンドトキシン
   →ピルビン酸からアセチルコエンザイムAに変換される過程を障害
   →ピルビン酸の蓄積による高乳酸血症になる
 ・敗血症において高乳酸血症=酸素化の不足は一対一対応ではない

術後心房細動

後期研修医勉強会 担当:E先生

「術後心房細動」

・術後不整脈は周術期に頻度の高い合併症のひとつ。
・最も代表的な術後心房細動(POAF)は30-50%と高率に発症。
  ・冠動脈バイパス術後:30%
  ・弁置換術:30-40%,
   ・複合手術:40-50%
  ・肺手術(葉切除):10-20%
      (全摘術):40%         
・術後1週間以内に起こりやすい
  ・術後2日目が最も多い
  ・43%の患者が最低1回AFのエピソード
・新規発症のPOAFは、自然に洞調律化
  ・15-30%は2時間以内、80%以上が24時間以内、
  ・90%以上が術後6-8週間に洞調律化する
・発症機序
 ・トリガーとなる局所的な異常興奮
   →心房頻拍や心房期外収縮など
 ・電気的・構造的変化によるリエントリー
 ・術後急性期の一過性因子
   →血中カテコラミンの増加、炎症、心膜炎、
    電気的リモデリング、自律神経障害、心房の伸展、
    低酸素、電解質異常、代謝異常 
 ・詳しいメカニズムは解明されていない
・リスク因子
 ・術前リスク因子
   →高齢(>75歳)、遺伝、高血圧、糖尿病、肥満、COPD、
    左房・左室肥大、僧帽弁疾患
 ・術中リスク因子
   →術中侵襲(ベント・脱血管挿入)、心筋障害(虚血・低血圧)、
    急激な循環血液量の増減(拡張・虚脱)
   →人工心肺を使用した開心術では発症しやすい
 ・術後リスク因子
   →急激な循環血液量の増減、電解質異常(Mg、K)、
    交感神経系亢進(疼痛、貧血、発熱、炎症、カテコラミンの投与)
・合併症
 ・一次的合併症:
   →自覚症状(動悸)
    血行動態の破綻(心不全、血圧低下)
 ・二次的合併症:
   →周術期脳梗塞(発症率は3倍)
    ICU滞在日数・入院期間の延長→医療費の増大
    周術期・長期の死亡率の上昇
・発症予防
 ・ACCF/AHA/HRS心房細動患者管理ガイドライン(2014年)
 ・ESC心房細動治療ガイドライン(2010、2016年)
   →POAFの発症予防を推奨 (Grade1B)
   ・β遮断薬>アミオダロン、ソタロール(Grade1B)
   ・低コスト、重篤な副作用が少ない
   ・β遮断薬は可能であれば術前から開始し、術後も継続する。
   ・β遮断薬を使用できない患者
     →アミオダロン・ソタロールの使用を考慮。
   ・ソタロール副作用
     →TdP、徐脈、β遮断作用、腎不全患者には禁忌、QT延長
   ・アミオダロン副作用
     →徐脈、ペーシング使用の上昇、QT延長、
      肺合併症(間質性肺炎)を考慮、重症例には慎重
   ・メトプロロール(セロケン)<カルベジロール(アーチスト)
   ・ビソプロロール(メインテート)
   ・心房ペーシング△
   ・抗酸化ビタミンはβブロッカーに併用して使用する。(Grade2C)
     →術前から開始し退院まで継続。
   ・ビタミンC(1g)、ビタミンE(400IU)/日。
・管理、治療
 ・循環動態が安定した患者
   ①循環血液量の是正、電解質異常(Mg、K)の補正、
    低酸素・疼痛・貧血等のコントロール、カテコラミン減量・中止
   ②レートコントロール(<110/min)
   ③リズムコントロール
    ・レートコントロールvsリズムコントロール
     →抗不整脈薬による洞調律維持より、心拍数調節と抗凝固療法
    ・24時間以上持続する場合は、薬物的除細動を考慮する。
    ・循環動態が不安定な患者
      →除細動
 ・まとめると、最初は、低酸素、電解質異常、循環不安定の是正や、
  疼痛、カテコラミンの中止
   →そこからレートorリズム、除細動、抗凝固
 ・洞調律に復帰した患者でも、少なくとも4週間抗凝固療法を開始する。
         (CHADS2DS2-VASc score高値、HASBLED score低値)
 ・フル抗凝固になるまで静注のヘパリンは使用しない。
   ↑術後の出血リスク>脳梗塞リスク
    ただしPEや機械弁の患者には考慮してよいかもしれない。
・抗凝固療法
  ・複数回のAFエピソードのある患者、48時間以上持続している患者
    →周術期出血リスクが許容できるなら経口抗凝固薬が推奨される。
  ・高リスク患者(CHA2DS2-VASc score>2点)には48時間以内でも推奨される。
  ・ワーファリン(INR;2-3)>直接抗トロンビン・Xa因子薬 (Grade2C)
  ・抗凝固薬療法は、洞調律復帰後も最低4週間の投与継続が推奨される。(Grade2C)

2017年7月17日月曜日

ステロイドカバー

初期研修医勉強会 担当:K先生

「ステロイドカバーについて」

・ステロイド使用患者における注意点
 ・ステロイドが適応となる原疾患に対する麻酔計画
  →例えば・・・
   ・関節リウマチ患者の挿管困難に対する気道確保
   ・気管支喘息に対する発作予防
   ・血液疾患による汎血球減少に対する対策
 ・ステロイド長期投与に伴う副作用の管理
  →例えば・・・
   ・耐糖能異常
   ・易感染性
 ・ステロイド分泌抑制に対する補充(ステロイドカバー)
・まずは床下部-下垂体-副腎系(HPA系)を復習
 ・ストレスによりHPA系はpositive feedbackでcortisolを産生
 ・産生されるcortisolは8-10mg/day程度。
 ・cortisolは内因性も外因性も含めてHPA系にnegative feedbackをかける。
・ストレス下でのcortisol分泌量
 ・minor surgery→50mg/day
 ・greater surgical stress→75-150mg/day、まれに200mg/day以上
・二次性副腎機能低下症
 ・ステロイドはnegative feedbackによりHPA系を抑制する。
  →CRH、ACTHの分泌が抑制される。
  →それらの刺激を受けなくなった副腎皮質は萎縮する。
  →何らかのストレスを受けてCRHやACTHが分泌されても
   委縮した副腎皮質からは十分量のコルチゾールが分泌されないため、
   副腎不全を呈することがある。
・周術期の二次性副腎不全の報告(1950年代)
  ・34歳男性。関節リウマチに対して
   50mg/dayのコルチゾンを8ヶ月にわたり投与。
   股関節形成術後ショックに陥り、術後3時間で死亡。
  ・20歳女性。関節リウマチに対して
   75mg/dayのプレドニゾンを8ヶ月にわたり投与。
   膝関節の術後ショックに陥り、術後6時間で死亡。
 →いずれも病理学的所見で両副腎の萎縮、腺組織の顕著な変性を認めた。
 →副腎不全が死因と考えられた。
 →ステロイドカバーの必要性が提唱されるようになった。
・HPA系の評価
 ・intermediate patientsにはHPA系の評価を行うことを推奨する
 ・まず早朝コルチゾール基礎値でスクリーニングを行う。
  ・cortisol<5μg/dL
   →HPA系抑制の可能性が高いためステロイドカバー行う
  ・cortisol>10μg/dL
   →HPA系抑制の可能性は低いため常用量のみで可
  ・cortisol 5 to 10μg/dL
   →追加検査を行うかempiricにステロイドカバーを行う
 ・早朝コルチゾール基礎値でグレーゾーンと判定された場合
   →追加検査として迅速ACTH負荷試験を行う。
  ・迅速ACTH負荷試験
   →ACTHを投与することでHPA系の下流にある副腎皮質の機能を調べる
    ・ACTH製剤(コートロシン®)250μg投与
      →30分後 cortisol<18μg/dL→副腎機能低下あり
           cortisol>18μg/dL→副腎機能正常
・ステロイドの内服期間が3w未満の患者
  →用量にかかわらずステロイドカバーは必要ない。
・3w以上、PSL換算で1日20mg以上内服
  →ステロイドカバーが必要。
・3w以上、1日5-20mg内服
  →HPA系の抑制状態を評価するための検査を行うか、
   empiricにステロイドカバーを行う。
・吸入ステロイドは?
 ・吸入ステロイドを使用中の患者の早朝コルチゾール基礎値(13研究)や
  尿中コルチゾール(21研究)について調べた研究のメタアナリシス
                 (Arch Intern Med 1999; 159:941.)
  →750μg/day以上のフルチカゾン(フルタイド)、
    1500μg/day以上のブデソニド(パルミコート)、べクロメタゾン、
    トリアムシノロンの吸入でHPA系の抑制が確認された。          
 ・UpToDateでは?
  →750μg/day以上のフルチカゾンや
   1500μg/day以上のフルチカゾン以外の吸入ステロイドを
   3週間以上使用している患者
    →術前にHPA系の評価を行うよう勧めている。
・外用ステロイドは?
 ・Class Iの外用ステロイドを2g/day以上使うとHPA系が抑制される可能性。
                  (J Am Acad Dermatol. 2006; 54:1.)
  ・UpToDateではClass I-IIIの外用ステロイドを2g/day以上、
  3週間以上使用した場合は術前にHPA系の評価を行うことを勧めている。
  ・ちなみに0.5gで両手掌に塗布する分量に相当するため、
    体幹等にも塗るのであれば2g/dayはそれほど多い量ではなさそう。
・何をどれだけ投与するか?
 ・かつてはヒドロコルチゾンを術前、術中、術後に100mgずつ計300mgを
  手術当日に投与しその後徐々に減量。
  →この投与量は大手術を受けた正常患者の血中コルチゾール最高値を
   上回るように設定
  →多くの患者にとっては過量投与。
 ・副作用として血圧上昇、水分貯留、消化性潰瘍、
  創傷治癒遅延、感染の増加などが多数報告された。
・周術期のステロイド補充量
  ・一般的に手術侵襲の大きさによって決めることが多い。
  ・健常人でのコルチゾール分泌量を参考とする。
  ・小手術では健常人ではコルチゾールの分泌はおよそ50mg/dayまで増加し、
   24時間以内に平常値まで戻る。
  ・より大きな手術(例えば結腸切除術)では75-100mg/dayまで増加し、
   24時間から48時間で正常化する。
  ・さらに大きな手術(例えば食道手術や心臓手術)では、
   200-500mg/dayまで増加する。
   ・ただし術翌日には200mg/day未満となることが多い。
・そもそもステロイドカバーは必要か。
 ・侵襲の大きな手術を受ける患者でも常用量のステロイドで十分?
  ・炎症性腸疾患に対する手術を受ける患者に
   常用量のステロイドのみを投与した後向きコホート研究
                    (Surgery 2012; 152:158.)
   →血管作動薬や追加ステロイドの投与を必要とするような
    循環変動は生じなかった。 
  ・同じグループが2014年に発表したRCT(N=92)(Ann Surg 2014; 259:32.)
   →常用量のみを投与した群とヒドロコルチゾン100mg×3回/dayを投与した群で
    循環動態に差はなかった。 
 →現時点では周術期のステロイド投与による副作用よりも、
  副腎不全のリスクを考慮してステロイドカバーは必要であるという意見の方が多い。

硬膜外麻酔について

初期研修医勉強会  担当:K先生

「硬膜外麻酔について」

・August Karl Gustav Bier
 (24 November 1861 – 12 March 1949)
・コカインによる脊髄くも膜下麻酔を世界で初めて外科手術に(1898年)
・脊麻と硬麻
 ・世界初の硬膜外麻酔はスペインのFide Pagesによる腰部硬膜外麻酔(1921)
 ・脊麻も硬麻も局所麻酔の一種(区域麻酔)
 ・背中からの麻酔であることは似ているが違いを把握することが大事
・局所麻酔薬と神経線維
 ・ブロックされる順番は
   →交感神経>温覚>痛覚>触覚>圧覚>運動繊維
・神経線維のブロックはその太さやミエリン鞘の有無に影響される。
 ・局所麻酔薬によるブロックされやすさは原則、
   ・有髄神経<無髄神経
   ・神経線維が太い<細い
  ・運動をつかさどるA-α繊維
    →髄性で繊維も太いためブロックされにくい。
  ・位置覚などの固有知覚を司るA-α、A-β繊維
    →太いのでブロックされにくい。
  ・痛覚は有髄性で比較的細いA-δデルタ繊維と無髄で細いC繊維が司っている
    →ブロックされやすい。
  ・神経線維でもっともブロックされやすいのは?
    →自律神経節前繊維であるB繊維。
  ・ただし文献によってはC繊維よりも
   Aδ、Aβ繊維の方がブロックされやすいとしているものもある。
・分離麻酔と分節麻酔
 ・硬膜外麻酔において
   ・分離麻酔:麻酔薬の濃度を変えて遮断する神経種類(太さ)を変える
     Ex)リドカインは0.5%で交感神経、1%で知覚神経、
       1.5-2%で運動神経を遮断(筋弛緩)
      ・分節麻酔:麻酔薬の容量を変えて遮断する神経レベル(範囲)を変える
     Ex)1分節0.5mL~2mLと人によって異なる
・脊麻、硬麻の合併症
 ・血圧低下、徐脈、硬膜穿刺、局所麻酔薬中毒、くも膜下腔注入、血管内注入など。
 ・血圧低下や徐脈
   →起きてから対処するのではなく起きるものとして考える。
   →施行前の十分な輸液と昇圧薬とアトロピンの準備、酸素投与が重要。
 ・硬膜外カテーテル挿入後にテストドーズ
   →1-2%リドカイン3mLを試しに注入
   →くも膜下投与でないことを確かめる。
   ・この時に20万倍アドレナリンを添加したものを入れた場合に
    心拍数が20/分増加すれば血管内投与であることが確認できる。
・術後合併症
 ・頭痛(硬膜穿刺後頭痛)、馬尾症候群、脳神経麻痺、硬膜外血腫、
  硬膜外膿瘍、神経損傷、髄膜刺激症状、髄膜炎、尿閉など
 ・硬膜穿刺後頭痛頭痛
   →脊麻後頭痛と呼ばれ術後1~2日ごろに発症します。
   ・硬膜外麻酔の硬膜の誤穿刺では必発で若年女性に多い。
   ・安静臥床、輸液負荷が必要。
   ・難治性の場合は自己血パッチ。
 ・馬尾症候群
   →脊髄くも膜下麻酔後の歌詞運動麻痺、会陰部の知覚異常、
    膀胱直腸障害を症状とする。
   ・局所麻酔薬の神経毒性が主な病因とされる。
   ・近年は毒性が低いものを使うようになり頻度は減少している。
 ・その他低髄液圧によって外転神経麻痺による複視を起こすことも。
 ・硬膜外血腫は近年抗凝固療法の広まりと共に増加している、
   ・古いデータでは十万例に一人というデータもあるが、
    実際には最も多いと推測されている。
 ・遷延する尿閉は一過性の無菌性髄膜炎によるものとされ
  2~3日で軽快することが多い。
・硬膜外麻酔の利点
 ・持続投与が可能で長時間手術も可能
 ・術後疼痛管理が可能
 ・ブロックの範囲の調節性が高い
   →他のオピオイド全身投与よりも優れた疼痛管理
   →交感神経系ブロックや周術期免疫能の維持により患者の予後を改善?

2017年6月7日水曜日

専攻医(後期研修医)募集!

神戸市立医療センター中央市民病院・麻酔科では、新・麻酔科専門医研修プログラムに対応した平成30年度採用の専攻医(後期研修医)を募集しています。
 研修プログラムにおいて責任基幹施設である神戸市立医療センター中央市民病院は神戸市の基幹病院であると同時に、救急救命センターを併設する救急病院であり、小児外科・小児心臓外科を除くほぼ全科の麻酔管理に対応しています。麻酔科専攻医は現在12名であり、当院の手術室、集中治療室の実働部隊としての中央診療部門の核心を担っています。時にはハードな日々もあるとは思いますが、経験可能症例数、指導体制の充実度は国内有数の研修施設であり、麻酔科医としての臨床能力をつけるには最適の病院であると自負しています。なお、神戸市立医療センター中央市民病院・麻酔科専門医研修プログラムにおける病院群は以下の通りです。

責任基幹施設

・神戸市立医療センター中央市民病院(神戸市中央区)

基幹研修施設
・神戸市立医療センター西市民病院(神戸市長田区)
・西神戸医療センター(神戸市西区)
・岐阜県総合医療センター

関連研修施設
・兵庫県立こども病院
・神戸大学医学部附属病院(神戸市中央区)
・京都大学医学部附属病院


希望があれば研修の全てを神戸市内で完結することが可能であるのが当院プログラムの特徴です。4年間の研修期間を神戸市在住のまま、引っ越しや長距離通勤なしで過ごすことができるのは大きなメリットと思います。
 また当院麻酔科の特徴として、手術部門に隣接して麻酔科管理型ICU(G-ICU)を有しており、心臓大血管手術をはじめとする大手術の術後管理、内科的重症患者、院内急変患者の治療を麻酔科主体で行なっている点があります。専攻医は2年次、および3年次に集中治療部に専従し、集中治療を学び、経験することとなります。当院麻酔科における集中治療研修で、集中治療専門医の習得に必要な集中治療勤務歴を満たすことが可能です。
 朝の麻酔科ミーティングも当院麻酔科の特徴です。毎朝、日々の業務が始まる前に全員集合での勉強会が開催され、麻酔、集中治療、TEE、神経ブロック、症例フィードバックなど、麻酔科ローテーション中の研修医の先生も加えて発表&質疑応答が行われ、全員で知識を深め、共有しています。

 充実したスタッフ構成のため、オンオフがはっきりしていることも当科の特徴です。夜間は麻酔科当直(麻酔部門2人、集中治療部門1人)が緊急手術、集中治療に対応するため、非当直日は仕事が終われば完全duty freeです。夜間呼び出されることはありません。また当直明けも可能な限り早く帰れるよう努力しています(だいたい午前中には解放です)。
 忙しい病院ですが、麻酔科スタッフ29名、協力して、お互いから刺激を受けながら日々の業務に勤しんでいます。神戸市の高度医療、救急医療の第一線を担う当院麻酔科で研鑽を担いたいという志の高い先生方の応募を期待しています。是非一度見学にお越しください。
 研修医の先生の見学は随時受け付けています。麻酔部門中心、集中治療部門中心、どちらも、など希望があればお伝え下さい。もちろん医学生、後期研修医の先生、その他ベテランの先生方の見学も歓迎しています。お待ちしております。

■見学申し込みなど、お問い合せはこちらへ。
麻酔科部長 美馬 裕之
hmima■kcho.jp (■を@に変換してご送信ください。)

超緊急帝王切開シミュレーション

当院で年に2度開催されている
超緊急帝王切開シミュレーションが先日開催されました。
今回は病棟の双胎妊娠の妊婦さんに対して、
超緊急帝王切開が発令されたとの想定で、
産婦人科、麻酔科、新生児科、手術室が合同で
シミュレーションに臨みました。


手術室入室

物品も開封しています。

産婦人科病棟からも多数の見学者

手術室看護師も多数参加しました。

終了後は検討会。

担当された先生、お疲れ様でした。

2017年4月19日水曜日

Postoperative Nausea and Vomiting

初期研修医勉強会  担当:H先生

「Postoperative Nausea and Vomiting」

・術後嘔吐の発生率は約30%、術後嘔気の発生率は50%
  →高リスク患者においてはPONVの発生率は80%!
・PONVは患者にとって不快
  →さらに早期離床を妨げ退院の遅れや再入院の原因となる。
  →PONVの発生率を低下させることが医療費の削減にまでつながる。
・嘔吐中枢は延髄網様体にある。
  →種々の求心性刺激に対して嘔吐を起こす。
  ・嘔吐を引き起こす求心路にはおよそ5つの経路がある。
   ①セロトニン(5-HT)によって活性化される化学受容器
    または機械的受容器から入り迷走神経を介する経路
   ②前庭迷路系から第Ⅷ脳神経を介する経路
   ③視覚中枢からの経路
   ④辺縁系を介する経路
   ⑤延髄の最後野にある化学受容器引金帯(CTZ)を介する経路
・PONV予防
 ・PONVのメカニズムは明らかにされていない。
 ・複数の受容体が関わっていることが考えられる。
 ・患者要因
   ・女性 (OR:2.57)
   ・PONVの既往 (OR:2.09)
   ・非喫煙者 (OR:1.82)
   ・乗り物酔いしやすい (OR:1.77)
   ・年齢 (OR:0.88,10歳上がるごとに)
 ・手術因子
   ・一般的にPONVのリスクとなる手術と言われている手術
     →腹腔鏡下手術、開腹/開胸術、形成、婦人科、脳外科、
      眼科(特に斜視手術)、泌尿器科、頭頸部手術など
   ・腹腔鏡下手術、婦人科手術、胆嚢摘出術は独立したPONVのrisk factor
   ・手術所要時間>60分でPONV発生率が上昇
 ・麻酔因子
   ・全身麻酔
   ・吸入麻酔;容量依存性に発症率が上昇
   ・亜酸化窒素(笑気)
   ・術後のオピオイド使用
    (術中のオピオイド使用は要因とはならない)
  →麻酔方法を工夫してみる
   ・全身麻酔
     →可能な症例は局所麻酔下で手術を行う;発生率1/9に

   ・吸入(揮発性)麻酔
     →プロポフォールによるTIVAを行う
      高リスク群において、PONVの発生率が約25%低下
   ・亜酸化窒素(笑気)
     →使用しない
   ・術後のオピオイド使用
     →使用量を最小限に留める
      ・NSAIDsによる鎮痛、局所麻酔薬のみによる硬膜外鎮痛など
・予防薬
  ・セロトニン受容体拮抗薬
    ・腸管からの迷走神経刺激に基づく
     セロトニン分泌による嘔吐中枢の刺激を遮断
    ・嘔気よりも嘔吐に対してより効果を持つ
              (POV;NNT=6、PON;NNT=7)
    ・副作用
      ・セロトニン症候群
      ・QT延長作用
         →容量依存性。
          先天性QT延長症候群の患者では避けるべき。
          不整脈のリスクが高い患者においてはECGモニターを。
    ・5-HT3拮抗薬は最もcommonなPONV対策である@アメリカ
      →しかし、薬価が高価(\4,290/4mg)であり、
       その上日本では抗がん剤投与時以外は保険適応外である
    ・手術終了時に4mg投与することが推奨されている
  ・デキサメタゾン
    ・PONVの発生を約25%予防する (NNT=4)
    ・この結果はどの手術様式や全身/脊髄麻酔のいずれにもあてはまる
    ・PONV予防のメカニズムははっきりとはわかっていない。
    ・おそらくは手術に起因する炎症を減らすためであると言われている。
    ・日本では保険適応外=適応外使用 (cf. \97/1A)
    ・経静脈的に4~5mgを麻酔導入時に投与する。
      →4~5mgの投与と8~10mg投与はPONV予防の有効性は同等であった。
    ・副作用について
      →臨床的に重度な高血糖や創部感染の頻度は増加しない
      →しかしIGTやDM、肥満患者では8mg投与で
       投与後6~12時間に高血糖が生じるという研究があり、
       糖尿病の患者に投与するのは相対的禁忌である
       (4~5mgの投与が推奨されているのは、上記も要因となっている。)
    ・一度生じたPONVの治療には予防投与時ほど有効ではない  
  ・ドロペリドール
    ・中枢神経系においてドパミン、GABAの伝達を阻害。
    ・CTZにおいて受容体を遮断することにより、制吐作用を発現。
    ・オンダンセトロンと有効性は同等(NNT=5)
    ・手術の最後に投与することが推奨されている:0.625~1.25mg IV
    ・日本では保険適応外=適応外使用
    ・副作用
      ・QT延長作用:QT延長症候群の患者ではTdPに至る可能性あり
         →2001年にFDAで警告が発せられて以降、
          第一選択ではなくなった
         →短時間での使用なら問題ない、
          オンダンセトロンとQT延長作用について
          差異はないなどの見解もある。
            →現在も多くの国で用いられている
      ・間代性けいれん
  ・ニューロキニン受容体拮抗薬
    ・ニューロキニンは前嘔吐(pro-emetic)物質である
    ・術後~24時間のPONV予防効果ではオンダンセトロンと同等である。
    ・術後24~48時間では、嘔吐予防にオンダンセトロンより有用である。
    ・新しい薬剤のため、他の薬剤と比較し研究が少ない??
    ・日本において抗癌剤使用患者に用いられることはあるが、
     PONVに対しては保険適応外である。
  ・抗コリン薬
    ・正確な機序は判明していない。
    ・経皮スコポラミンがPONVの予防に用いられている。
    ・作用発現が遅いため、PONVの治療には適さない。
    ・効果発現までに2~4時間かかるため、麻酔開始の2~4時間前に貼る
    ・オンダンセトロン、ドロペリドールと同等の効果をもつという研究あり
    ・副作用
      →鎮静、視覚異常、ドライマウス、めまい
      →閉塞性緑内障の患者への使用は禁忌
    ・やはり、日本での保険適応はない…
  ・ドパミン受容体拮抗薬
    ・嘔気時に10mg(1A) IVが適応となっている
       →メトクロプラミドは制吐作用が弱く、
        10mgの投与ではPONVの発症率の低下につながらないという研究も。
    ・20mg以上の投与で効果が認められ、容量依存性に効果が上昇する。
     →しかし大量投与については疑問が残る。
     →これに代わる薬剤がないので日本では依然用いられている
・非薬物療法
  ・輸液
    →適切量の輸液がPONVの発生を減少させる!?
    →晶質液と膠質液との間に差異はない
    →全身状態や手術法など全般を考慮して行うかを決定する。
  ・ツボ刺激
    →P6(Pericardium 6;内関)というツボに
     針刺激や圧迫刺激を加えるとPONVの予防効果がある。
    ・P6;長掌筋腱と橈側手根屈筋腱の間で
       手首のしわから3 横指(2インチ)中枢側にある。
    ・麻酔導入前後のいずれに刺激しても効果に差異はない
・リスクに対する介入
 ・risk factorなし
   ・PONV予防薬の投与は必要ない
   ・しかし嘔吐の合併の可能性の手術を行う場合は予防薬の適応
 ・risk factor1つ
   ・予防薬の単一剤投与
   ・デキサメサゾン、アプレピタント、経皮スコポラミンは
    長時間作用効果がありPONVの発生を減少させる
 ・risk  factor複数
   ・2,3の薬剤を併用。
   ・可能であれば吸入麻酔薬の使用を回避=TIVA
   ・術後のオピオイド使用を最小限にとどめる
・発症後の治療について
 ・予防ほどの有効性はない。
 ・セロトニン受容体拮抗薬が最も一般的に用いられており、
  十分な研究が行われている唯一の有効な治療薬と言われている。
 ・デキサメサゾン、ドロペリドールも一定の効果がある。
 ・日本では適応がなくメトクロプラミドが用いられている。
 ・予防治療を行ったのにも関わらずPONVが進行した場合は、
  別の作用機序の薬剤を選択することが推奨されている。